そのまんま東氏が再チャレンジに成功だと?
ある新聞記事によれば、安倍首相は宮崎県知事選でそのまんま東氏が当選したことに触れ、「彼は再チャレンジに成功した」と語ったそうだ(1月22日)。早大で学び直し、芸能人から政治家に転身したことを念頭に置いてのことである。安倍首相はこの転身をまさか本気で再チャレンジの模範的実践として称えたわけではあるまい。軽いノリで言ったか、あるいは知事選での自民党の推す候補の敗北を軽く受け流すために言ったかのどちらかだろう。だがふと口を出る言葉が発言者の本質を露呈するのはよくあることだ。つまりこの人は再チャレンジ問題などに本気で取り組む気がないから、こんな軽はずみなことを言ってしまったのである。
そのまんま東氏がたとえば横山ノック氏よりもずっとまじめな人物であることは拙者も認めることにやぶさかではない。彼は清潔な県政を実践するため、十分な準備をしたうえで選挙に圧勝した。彼の成功は明るい話題であり、拙者はそのことにケチをつける気持ちは全くない。しかしこれが再チャレンジ成功の範例だと言われると、バカも休み休み言え、と言いたくなる。そのまんま東氏は芸能人としてかなり成功していた。そのうえで別の領域への転身を試みたのだ。この転身の成功にあたり、芸能人として獲得していた人気が大きく寄与したことは誰も否定できないだろう。ところが、なんの業績もないワーキング・プアやリストラの被害者が安定した職に就く道を拓くのが再チャレンジ政策の本旨なのだ。その政策を本気で即刻に実現する気が安倍首相にあるとは思えない。だからこそある分野での成功者がその実績を利用して他の分野に転身したのを、再チャレンジの範例などと、軽はずみに言ってのけたりするのだ。
安倍首相はとてもイデオロギー性の強い政治家である。憲法改正だの教育再生だの、この人が緊急課題として掲げるものはすべてイデオロギー性の強いものだ。拙者には増しゆく格差の広がりや福祉行政のおくれや、それらに伴う自殺率の上昇や障害者への虐待的措置や老老介護の悲惨などこそ、政治家がまず取り組むべき緊急課題だと思えるのだが、そういった問題はこの新自由主義と国防のイデオロギーに取り憑かれている首相には後回しにしてよい課題なのである。教育再生の眼目もこの人にとっては主として生徒に規律を植えつけることにあるようだ。ところでこの規律なるものは、上記のイデオロギーを受け入れる素地を形づくるものなのである。
安倍首相は国民の大部分が政治に寄せる期待に背を向けている。再チャレンジ成功例発言はその期待とのずれに気づかないほど頭が悪いせいなのか、それとも観念に熱中しているためなのか、よく分からない。多分その両方だろう。
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