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2006/11/19

いじめる側に問題

 いじめによる自殺が毎日のように報道されている。それと共に、文科省大臣をはじめ、専門家や有名人たちのアピールが、紙面や画面を賑わわせている。そのアピールは自殺の防止をめざしているので、当然のことながらいじめの被害者へ向けられたものが多い。しかし加害者があって被害者が出るのであり、その逆ではないのだから、いじめ問題は、まずなぜいじめるかの問題である。いじめの欲望がある限り、なんらかの対象が出現するのだ。誰が対象として選ばれるかは状況によってさまざまであり、二次的な問題にすぎない。

 いじめとは多数者の少数者への攻撃だが、それにはいろいろの場合があって、どんな場合がいじめなのかを精確に定義しようとすると、これはなかなかむつかしい。だがここではいま深刻な問題となっている学校内のいじめを念頭に置くだけで十分である。
 人間は自分の力を表現したがるものだ。力が表現できた時、快感を味わう。ところが独りでは自分に力があることを自認できない場合が多い。多数の中に加わると、多数の力が各自に伝わり、自分が力のある存在だと思えるようになる。こうして得られた力を無力な対象に向かって行使するのがいじめである。いじめに参加した各自は快感を得るが、それにはうしろめたさや、自分自身が傷つけられているような不快感を伴うこともまれではない。しかしそれでも快感が得られることは確かだ。
 いじめる対象として選ばれるのは、人並から外れた生徒である。多くの場合、この犠牲者は並以下の属性や能力の持ち主とみなされている生徒だ。たとえば人並よりも気が弱くて、いじめに逆襲することのできない、格別に気の優しい生徒がそうである。この例が示すように、並以下の属性や能力とみなされているものも、別の観点からは並以上であるかもしれない。だがいじめる側から並外れであると見えるだけで、彼または彼女は犠牲者として適格なのである。なぜなら並外れは少数者だからだ。それゆえ、まれではあるが、並以上の生徒もいじめの対象に選ばれることもある。たとえば格別に成績がよいとか、格別に可愛らしいとかが、注目の対象となる。これらの能力や属性を利用して、彼または彼女が先生に気に入られようとしていると見える場合には、いっそう注目の対象となるが、そう見えなくても、やはり注目の対象となる。並外れだからだ。つまり少数者だからである。
 ここでいじめグループにとっての少数者のイメージについて考えてみよう。いじめる者にとって並以下の対象は、自分がそうなりたくない他者であり、並以上の対象は、自分がそうなりたいがそうなれない他者である。いじめる者は前者に対しては嫌悪を、後者に対しては羨望を感じるが、いずれにしても、並外れの者はこのグループの世界の外にある。世界の外にあるということが、いじめグループにとっての少数者たるものの特徴なのだ。だからいじめはこれら少数者が彼らの世界の外にあることをはっきり確認する作業である。

 人は多数に参加することで多数の力を自分のものとし、それによって自分の力に自信をもつことができた。その結果、この多数グループの狭い世界を堅固にすることになった。裏返して見れば、人は自分たちの狭い世界を堅固にするために、自分の弱い力を強化してその力を行使しているとも言えるのである。
 多数に参加しなくても、自分の力を強め、自信をもつ方法はほかにいくつもありうる。また、少数者を攻撃しなくても力を表現する通路はほかにいくつもありうる。こうしたほかの方法や通路に目が向かないで、狭い世界を固めることで力を行使するのがいじめグループなのだ。どうしてこんな矮小な方法や通路にかなり多くの生徒がハマってゆくのか。さしあたっては、私たち社会の側に問題があるとしか言えない。

 ただ、はっきり言えるのは、教育基本法の改正はいじめの解消には何の役にも立たない、ということである。逆に、愛国心涵養の教育は、いじめではないが、それに類似する多数者の少数者攻撃へと、力の行使を導いてゆくことだろう。この教育は非国民を作り出して彼らを攻撃する道を広げ、矮小な世界を堅固にしてゆくだろう。この改正案は参院をも通過しそうになっている。何のための改正なのか。国会での議論が深まらないまま、やらせタウンミーティングなどのごまかしで、多数派が押し切ろうとしている。残念だ。

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コメント

教育基本法の改正はいじめの解消には何の役にも立たない
常識的に考えてその通りです。
 ただ世論のマジョリティはいじめの増加(本当に増加しているかは不明)は規範意識の低下と考えており、その中のかなりの部分が愛国心教育を支持している可能性が高いのです。
 いじめ問題や履修不足問題で教育への関心を高揚させた政権の思う壺になっているのが現状だと思います。
 マスコミにも毎日体制迎合的ないい加減なコメンテーターが出演し、国民に誤ったメッセージを送り続ける。この現状には憂います。

投稿: kechack | 2006/11/20 09:58

> どうしてこんな矮小な方法や通路にかなり多くの生徒がハマってゆくのか。

いじめグループ(加害者側)の精神分析をするなら,つまり原因を推定するなら,それはやはり加害者側もどこかで誰かからの被害に遭っているからだと思います。虐待された子が親になってまた自分の子を虐待する(復讐してるわけです)などのケースにも見られるように,基本的に親の因果が子に報いますから。経験的にもいじめっ子ってだいたい家庭に問題があったりしますよね。いまは学校自体がとてもストレスフルなところで,しかも出口が全くないというのが内藤朝男さんも指摘するところで,この指摘自体は正しいと思います。

で,そのストレスが,親ではなくてどこから来ているか。いまは社会全体が「弱い者に問題がある」とばかりにセーフティーネットを外しまくり,むき出しの自由競争の中で格差が拡大しつつあり,Winner takes allの状態ですね。つまりは社会全体が「ド貧民」「モノポリー」みたいな弱い者いじめの構造をもっているわけで,しかも今回の教育基本法改正ではさらにトップダウンを強化するわけですから,学校はさらにストレスフルな場所になるでしょう。でストレスをかけられている人間たちはさらに自分たちより弱い人間を探し出していじめるという,そういう悪循環が,今後今よりも強固なものになっていくのではないかと思われます。

いじめ自体は,もし内藤さんが言うように学校自体が相対化されて,学校=タテマエで学校外=ホンネというように面従腹背が可能になれば劇的によくなるでしょうが,そこには手がつけられていない。その意味でも教育基本法の改正はいじめ問題をむしろ悪化させる可能性のある愚策だと断言してよいと思います。何一つメリットが考えられないです。

投稿: Guy-くもえもん | 2006/11/20 22:23

イジメと言う表現が齎す行為は多岐に渉ります。
生物には、らしき生活行動に見られますが、本能的な先天的感情行為と見るべきではないと思います。
野生動物のイジメと見られるものには、完全に人間が断定出来る物では無く、多くの部分で必要な一過性のものです。
諸外国・地域でも人間の特に子供に見られます。一つの成長過程の必要部分でも有る場合が有ります。
今問題と為っている日本の現状は~
一つは根付いた独特の精神的歪みと見るべき面が有ります。(アメリカ等で見る差別は外見上と奴隷・先住民・肌の色etc異種感覚で排他的な優越感情が有りますが陰湿なイジメ行動は存在しません)
日本人の歴史観は権力者の歴史のみの国ですから、”権力志向か従属志向”かに二分されます、何れにも差別と村八分のイジメ体質は存在します。
過去10年間に発生した残虐事件は、可也・公に為って来ていますが、加害者は差別の苦しみの中で培われています。
戦時中・中国で中国人に危害を加える時、参加しない同僚・部下の兵隊に対して行った強制とイジメはなにを物語りますか?

大人の中にもイジメが有ります。ワーキング・プアーも無意識なイジメでしょう政府の政策にもイジメ政策が有ります。

個人がこの確立を持たない所以です。

文科省の通達は中央集権力丸出しです。
批判さえ出来ない・為させない、独裁国の一面を認識して実体の探求できる個の確立を願いたいです。

投稿: mmnori | 2007/01/13 14:08

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