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2006/05/01

愛国心の悪用

 閣議決定され国会に提出されようとしている教育基本法改正案の中に、愛国心の養成を教育の一つの目的とする条項が含まれている(第2条第5項)。公明党との折衝の結果、粉飾が施され、ゴテゴテした文章となっているが、自民党の結党以来の悲願だと言われる愛国心の養成が盛り込まれていることには変わりはない。
 愛国心は「自然」の感情であることは確かだが、それなら基本法にこれを目的として掲げる必要はないだろう。にもかかわらず、これを盛り込むことで、愛国心が悪用される危険が出てくることが問題だ。

 第一に、愛国心の称揚は排外主義的ナショナリズムへと通路づけられる危険がある。昨年上海などで大規模の反日デモが展開された時、これを苦々しく思った日本政府の要人たちのあいだで、この運動は中国政府が内政に不満をもつ民衆の攻撃的エネルギーを愛国排外主義へと向けさせ、内政批判をそらせた、という見解が出た。この見解がどの程度的を射ていたかどうかはまだ明らかではない。しかしともかく、この見解を述べた政府の要人たちは、愛国心は排外主義的ナショナリズムへと通路づけられること、そしてこの通路づけは政治権力の安定に利用されることをよく知っていたのだ。政府の要人たちだけではない。自民党議員の中にも、そしてまた日本人の一部の中にも、この認識は共有されていた。そして彼らすべては中国民衆のこの反日的態度を苦々しく思っていた。だとすれば、日本人のあいだで排外主義が盛り上がると、その対象となる国々は苦々しく感じることだろう。そして時の政治権力の担い手が内政への批判をかわすために、愛国心を排外主義へと向かわせようとしそれを悪用することもあるだろう。それらのことが分かっていながら、同じ道を選ぶことを望んでいるのだ。
 「自然」のままの愛国心でも排外主義を潜在的に含んではいるが、政治的人為によって拍車をかけられない限り、節度を越えて攻撃的となることはない。愛国心の称揚が法制化されると、他国に迷惑を与え、国際の平和的秩序を脅かす危険が生じるのである。

 第二に、愛国心の称揚の法制化は、国民一人びとりの内面の自由の表現を抑圧し、国民のあいだに陰うつな気分を広げる。もちろん政治権力は内面の自由を抹殺することはできない。しかしその表現を妨げることで、周囲への気づかいを増大させ、活気を失わせる。そして愛国心を特定の形で表現することを強制されると、その国そのものにさえ嫌気がさしてくる可能性もあるのだ。愛国心の法制化は形を求める。たとえば、学校の儀式における国旗の掲揚、国歌の斉唱である。強制はしないと政府は言っていたのに、国旗・国歌法ができたために、東京都教育委員会は生徒に国歌斉唱を指導するよう教職員に強制した。やがて戦前のように祝祭日には津々浦々の民家に国旗が掲揚される日がこないとも限らないのだ。
 時の政治権力の担い手はまた、支配層に有利な経済政策や社会政策を実行することで犠牲を強いられる階層を作り出すが、その人々の不満を、愛国心に訴えることで消散させようとするだろう。国のためなら応分の犠牲は我慢してもらわなければならない、という形で、政治権力の担い手は自分たちへ向けられる憤懣をかわすことができる。その憤懣のはけ口を外国へ向けさせる手もあることは先に述べた通りだ。
 そのうえまた、愛国心の強要は、時の政治権力の担い手が定めた型にはまらない行動に非国民的、反日的であるというレッテルを貼り、弾圧する道を開く。こうしてたとえば人類愛にもとづく行動も反日的と非難されることも出てくるのだ。そうなると、ヒューマニズムも利己主義の中に入れられ、息の根を止められるおそれが出てくる。拙者には人類愛のほうが祖国愛よりも倫理的に高い水準にあると思えるのだが、愛国心の称揚は人類愛を抑圧するところまでゆく可能性がある。

 何ら変える必要のない教育基本法を改正するのが自民党の悲願であり続けたそうだ。彼らは、教育が個人主義を助長し過ぎたので未成年者の犯罪の凶悪化などに現れる社会秩序の不安定がもたらされたのであり、ここで愛国心をもって個人主義を抑える必要がある、と考えているようだ。しかし愛国心が未成年者の犯罪の凶悪化を防ぐとは、正気な人にはとても思えないだろう。自民党にとって自分たちの思い通りにならないことがいろいろあった。その思い通りにならない一つの主要な原因を教育のせいにしようとしているのだ。思い通りにならなかったかどうかは別にして、いろいろの悪が発生しているのは、長年にわたりこの国の統治機構を動かしてきた自民党のせいでもある。もちろんすべての責任があるとは言えないが、かなりの責任はある。教育や個人主義に悪の責任を負わせるのは責任の転嫁だ。自分たちの支配にとって都合の悪いことと悪それ自体とを区別するところから議論を始めなければならない。

 連休が終わると、共謀罪の国会への上程が予定されている。その適用の範囲がどこまでなのか、はっきりしていない。悪くすると時の政治権力の担い手にとって都合の悪い言動にかかわった人がすべて、社会秩序の維持の名のもとで一網打尽に犯罪者とされそうな危険がある。密告も奨励されるようだ。自民党を勝たせ過ぎたツケが次々と回ってきているのである。

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コメント

いくつも反論したいポイントがあるのですが、取りあえずいくつか
明らかにおかしいと思われる点を指摘したいと思います。

「昨年上海などで大規模の反日デモが展開された時、これを苦々しく思った日本政府の要人たちのあいだで、」

反日デモから暴動になり日本領事館が蹂躙されたことに関しては、政府要人だけではなく、一般日本人も十分苦々しく思ったはずですよ。

「拙者には人類愛のほうが祖国愛よりも倫理的に高い水準にあると思えるのだが、」

まあ、同感なのですが、日本の周りにはこういう理想論と相容れない
国が多いのが日本の不幸なんでしょう。中国、韓国、北朝鮮は明らかに
反日を利用していますが、日本の教育基本法改正案の中に特定の国家を
敵視するように誘導する内容が含まれているでしょうか?

投稿: あめんぼ | 2006/05/10 20:27

こんにちは 始めましてm(__)m

久しぶりに素晴らしいと思えるブログに出会いました。
本村さんの記事から読みふけってしまいましたが、、、
本当に論理的で冷静に分析されていて
文章の構成度も高く目から鱗です。
私は結構幼稚な文章しかかけませんが
本当に言いたい事ってこういうことなんだって
正しく! ってうなずきながら読んでしまいました。
またチョクチョク遊びにこようと思います。

投稿: えん | 2006/06/27 18:29

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