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2006/03/11

四面楚歌の永田議員

 偽メールを信じた永田議員の発言を咎めて懲罰委員会が構成された。除名はむつかしいので、自発的な辞職の勧めが話題となっているようだ。公明党も、永田議員に何か恨みでもあるのか、彼にきびしく迫ろうとしている。一方、弱味を衝かれた民主党もこの攻勢に押されて自党議員を守り切れず、自らも進んで彼の辞職を勧めそうな気配もある。渡部国対委員長が「政治家は出処進退が一番大切だ」などと記者に語っていることにも、その気配が感じられる。この人は国対委員長になる以前は、十分な証拠をそろえたうえでないと議会で質問できないということになれば、野党議員は発言できなくなる、と永田議員をかばう趣旨の発言をしていた。状況の変化と国対委員長就任のせいなのだろう。
 永田議員の失敗は辞職に値するほどの重罪なのだろうか。多くの国民はそれほどの重罪とは思っていないのではないか。その失敗はたとえばテンパイになっていないのに思い違いをしてリーチをかけた、といったたぐいの、初心者にありがちなミスみたいなものではないか。もちろん、議会でのミスとマージャンの場でのミスとでは、その結果は大きく違う。しかしミスの性質は同じだ。他のプレーヤーたちや議員たちをだますつもりでやったのではなく、思い違いでやったのである。下手くそと笑われても当然だが、わざと思い違いをしたのではないことは、多くの国民にも分かっている。この思い違いのミスで辞職にまで追い込むのはバランスを失しているのではないか。
 永田議員は1回目の謝罪で偽メールを信じた罪を認めたが、なおライブドアと武部幹事長たちとのあいだに金銭の授受関係があったのではないかという疑惑はまだ払拭されていないから、調べを続けると付け加えた。この付言に対し与党側は立腹し、謝罪になっていない、と判断した。そこで永田議員は偽メールと分かったので、付言した疑惑そのものも払拭された、という趣旨の2回目の謝罪を行った。これで民主党の党としての謝罪と一本化したのである。しかし国民のあいだでは選挙戦当時ライブドアと武部幹事長とのあいだがあまりにも密接に見えたので、何らかのルートを通しての金銭的な授受があったのではないかと、まだ疑いをいだいている人が少なくないだろう。この疑いは持ち込まれたのが偽メールであることが分かったからといって、ただちに雲散しはしない。この点は永田議員が1回目の謝罪の言葉の中で言っている通りである。だから偽メールであることを知って一切の疑いが晴れたという2回目の謝罪には飛躍がある。無理やりに言わされた、という感じだ。無理がない場合もあるだろう。それは、初めはそんなことはないと信じていたのに、一通のメールがきて、疑いが生じた場合だ。そういう場合には、偽メールと分かれば疑いはすっかり晴れ、元の状態に戻るだろう。だが永田議員の場合は最初に疑いがあって、その疑いを裏書きするメールが手に入ったのである。この場合には、そのメールが偽であることが分かったからといって元の疑いがすぐに雲散することはないだろう。それに最初から疑いをもったのは永田議員一人ではないのだ。政界進出にも野心をもっていた大金持ちのホリエモンが、与党幹事長に「献金」しても不思議ではないと思った人は少なくなかっただろう。そしてこの疑惑はメールが偽と分かったところですぐ晴れるわけではないのだ。だから1回目の謝罪の時にまだ疑いは残っていると言った永田議員は正直だったのである。謝罪する時は徹底的に謝罪するほうが利口だ、永田議員は未練がましい、と非難する人もいたが、それは戦術上の問題であって、そのことが彼の罪を大きくする理由にはならない。
 今回の偽メール事件に見られたマスコミの反応も例によって弱い者いじめの感がした。弱いと見ると、寄ってたかって袋だたきにする。ホリエモンが大胆な手法で買収に乗り出した頃は、経済界に新しい機運を持ち込んだとして称揚していたマスコミが、彼に犯罪の疑いがかかっていることが分かると、手のひらを返したように罵倒し始めた。自分たちの不明はいっこうに恥じようとしないのだ。
 何年か前、辻元清美議員の秘書給与不正流用の件が問題になった頃、筑紫哲也の報道番組で、岸井成格毎日新聞特別編集委員と大宅映子の3人が辻元議員を吊し上げた。まるで検事が被告に論告を下すようであったことを今も憶えている。同席した河野太郎議員一人だけが検事ふうではなかった。議員になったばかりの辻元氏は党の方針(と誰もが思っていた)に事態がよく呑み込めないまま従っていたにすぎないのに、3人の追及は容赦はなかった。マスコミはこういう場になると正義の権化みたいに威張るのである。
 マスコミだって怠慢の罪を幾度となく犯しているではないか。いま問題になっている電気用品安全法は7年前に改正され5年前から施行されているというが、この間、その中味についてどれほどの報道があっただろうか。拙者は大新聞やテレビの報道番組のすべてを読んだり見たりしているわけではないので、そういう報道もあったかもしれない。だがあったとしても大々的なものではなかったのではないか。この悪法が4月から実施される段階になり、彼らはやっと報道し始めるのである。怠慢であるとしか言えない。
 永田議員は今や四面楚歌の中にいる。功を焦って軽挙妄動した愚かさは否定しようがないが、それにしても辞職せざるをえないほどの罪を犯したとは拙者には思えない。国民のかなりの部分も同意見ではなかろうか。

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